【イベント報告】「保育園の『保育の質』って何だろう」(2) 保護者×保育者×園長トーク

2022年11月5日(土)14時30分~16時30分、保育園を考える親の会は「東京都ウィメンズプラザフォーラム」の参加イベントとして、ワークショップ「保育園の『保育の質』って何だろう」を開催しました。

その内容を3回に分けてお届けします。2回目は、パネルディスカッション「保護者×保育者×園長トーク」です。

(2) 保護者×保育者×園長トーク(パネルディスカッション)

<パネラー>

保護者の立場から:渡邊寛子(保育園を考える親の会代表)

保育者の立場から:鈴木あつこ(仮名)

園長の立場から:山本慎介(板橋区わかたけかなえ保育園園長)

【普光院】自己紹介を交えて、ご自身の体験で保育をどう感じてきたか話してください。

【渡邊】3人の子どもが同じ私立保育園にお世話になりました。当初、1人目のとき、どこにも入れず近所の認証保育園に入りましたが、慣らし保育で違和感を感じることがちょこちょこあり、豊島区に住んでいたのに、だめもとで新宿区の認可への入園を申請、5月に入園できました。そこの保育園が大好きになりまして、引越しまでしたという経緯がありました。今日は保護者の立場からお話しさせていただきます。

【鈴木】自分がお世話になった幼稚園の先生にあこがれて幼稚園教諭になり、保育歴23年。私は体力には自信があるのですが子どもが小さいうちは大変だったので保育から離れました。3人目が1歳の時、現場が恋しくなり保育の現場にパートで復帰。パートでも未就園児のクラスを任されたりしました。

子どもが大きくなったので思い切って正職で保育園に復帰したのですが、0歳児の担任は大変で結局1年で退職。休日も園の仕事をしているような状態で、自分の子どもに目を向けることができなくなり、自己肯定感がずたずたになりました。現在は公立保育園で嘱託職員として働き、心も体も穏やかに働けています。好きなのは保育。子育てでたいへんなお父さん、お母さんの支えになれること、子どもにかかわって子どもがほっとしてくれた表情がうれしい。そんな毎日の繰り返しが自分を支えている。残念なのは、続けられずに現場を去っていく仲間もいる。どうしてなんだろうということを今日、考えられたらいいなと思っています。

【山本】両親も同職。働き続けるために保育のことを身につけようとドライに学んできました。28歳の独身の時に園長に就任。ベテランの保育者がいる園をまとめていかねばならず、自分に知識も技術も不足していることを悩んだが、保育所保育指針が法制化されたことがきっかけで、このシステムをベースに保育をつくっていけば質は高まると考え方でやってきました。

園長歴は18年。認可保育園は児童福祉施設と考えています。なので、保活という言葉が出てきて、利用者が保育園を選ばなくてはいけなくなっている状況はなくすべきだと思っています。ポジティブな意味でいろんな園があって、家庭の価値観などで選ぶというのならよいのですが、あそこは危ないからというようなことで保護者が選ばなくてはいけない状況はなくさなければいけないと思っています。

【普光院】「保育の質ってなんだろう」という本日のテーマについて、お考えをお聞かせください。

【渡邊】私自身が保育園育ちです。当時は、保育園に行く子は「かわいそうな子」と見られていましたが、私にとっては楽しい記憶しかない。4歳のときに大好きな先生にぎゅってハグしてもらったこととかは、あたたかな記憶です。入園したばかりの0歳児をみんなで見に行ってかわいい!って見ていた。これがベース。出産してはじめは保育の質について意識がなかったが、園の慣らし保育に違和感をもちました。目の前にいるのに子どものことを「手がかかるからいやだ」と保育者が話していました。わが子も何を言われるかわからないと感じて、園を変えました。やはり保育の質って、子どもたちにとっては、自分を自分として受けてもらえるということ、親にとっては、安心感というか、自分と同じ目線で子どもに接し、大切にしてくれるということなのではないかと思っています。最終的には、子どもの存在をまるごと受け止めてくれる園に預けることができたので、安心して働けたし、子育てを支えられたと思っています。

【鈴木】保育の質は保育者の質にかかる部分が大きいという話が普光院さんからもありました。これをみんなで考えるには保育者の仕事を知ってもらう必要があると思います。

今、私の考える保育とは子どもの安全を守りながら心をつかい、心を育てることだと思う。かみくだくために、1歳児クラスで当時2歳のSちゃんの話をします。Sちゃんは担任以外の保育者は区別していて、0歳児の担任である私がお手伝いで入ったときなど、安全のために声をかけると「近づかないで!」、歌を一緒に歌うと「歌わないで!」と拒絶されるような関係でした。安全を守るためにも子どもとの信頼関係が必要なんですね。子どもが自分の大切にしたい領域をもち、嫌なことを嫌って言えることはとても大切なことなので、Sちゃんにそんな部分がちゃんと育っているのだなと受けとめていました。遊びや生活を一緒にする中で、少しずつ信頼関係ができ、ある時、いっしょに歌を歌えたばかりか、手をつないで歌う遊びにほかの子どもたちも加わって、みんなと楽しめました。そうやって担任以外の大人との関係、お友だちとの関係を広げ、楽しいなと感じてくれているSちゃんの心が、またひとつ育ったということがうれしいことでした。

こういった出来事を保育者は記録します。子どもの成長を客観的に記録に残すのはなかなかたいへんです。記録をもとに計画も立てます。そんな事務仕事もあります。衛生管理、安全管理のような仕事もあります。これら全体の質をあげれば保育の質があげられると思います。

【山本】保育所の保育は組織的・計画的に行われているところが家庭の保育とは異なるところだと思います。今の鈴木さんのお話にもあったように、発達の見通しをもって、専門的なかかわりをする、そして一人でなく複数で関わる。そこでは、家庭と保育園の共通認識や情報共有が大切になります。

スライドの資料は全国私立保育連盟が2022年8月に発表した資料ですが、項目別の満足度と全体の満足度の相関関係を表しています。保護者のどのようなことについての満足が、園の総合的な満足につながっているかを表しています。すると、先生の質、風通しのよさ、つまり相談のしやすさや保育内容が公開されているか、家庭と保育園がどれだけ認識を共有できているかなどが、全体的な満足感と強い関連が見られました。

入園検討期つまり保活期には、柔軟性、利便性、習い事などが重視される傾向も見られますが、入園後には変わっています。保育を体験して、先生の質や風通しのよさのほうが大切だということに気づき、それが最終的な満足につながっているということなのかと思います。こういったことが入園前の保護者にも伝えられればよいなと考えています。

注)「未就学児をもつ親へのニーズ把握調査結果報告書」(全国私立保育連盟 https://www.zenshihoren.or.jp/activity/research.html

【普光院】渡邊さんのお話はこれから入園を考える方にとっては心強い話でした。大好きな先生がいたということでしたが、鈴木さんのお話の中にもあった保育者と子どもの信頼関係というものがひとつのキーワードとなっていたように思いました。鈴木さんの話では、子どもとのかかわりに難しさがあったときに距離を測りながら縮めていくといったことも保育者の専門性だと思いました。そのとき、子どもがこういう時期にはこういうことができるようになるからこんな遊びをしようとか、こういう本を読もうとか考えて、計画的に進めていくのも保育者の専門性であり、園の運営にもつながるもの。そこを山本園長は保育所保育指針から学んで実現しようとしてきたというお話もありました。風通しの良さ、保護者と園との関係においてもそれは大切ですが、保育者同士の風通し、「同僚性」と言いますが、保育者が子どものことや保育のことなどいろいろなことを話し合える関係が大切ということが、今、保育学界で言われるようになっています。この保育どうなんだろうと、職員同士で振り返ることができれば、さきほどお話した不適切保育を防ぐこともできるし、保育の質を上げることもできると思います。

それでは、次のテーマ。保育をもっとよくするためにはどうしたらいいとお考えですか。

【渡邊】うちの子どもたちが13年間お世話になった保育園は風通しの良さがありました。子どもが、小学校の先生はなんであんなにつまらなさそうなんだろうと言います。保育園の先生はいつも楽しそうだった、と。保育者が保育を楽しめるということが保育の質につながるのではないかと思っています。園長先生に、先生たちはなぜ楽しそうに仕事ができるのかを聞いたことがありましたが、保育者に苦手なことを強要せず、先生の強みを活かす保育を主軸に据えているということでした。先生たちが楽しく働くためには園長先生の雰囲気作りも大切なのかなと思いました。保育園を考える親の会のホームページのトップに「大人の都合よりも子どもの育ちが大切にされる社会」をという言葉を掲げているのですが、大人の都合で条件が整わず先生たちが楽しく働けないとすれば、子どもにもつらい保育になってしまうと思います。

【鈴木】保育をよくするために大切なのは、保育者が経験だと思います。資格を取ったからといって質の良い保育ができるわけではない。「保育者の仕事 〜自己チェックリスト〜」という本には400項目くらいのチェックリストがありますが、私の新人時代にはきっとまったくチェックできなかったと思う。23年の経験を積んだ今ではわかることばかり。例えば「食事の進み方で子どもの不安を察知しようとする」という項目がありますが、そんなことも経験からわかるようになる。新人の先生がダメということではなくて、新人もベテランと組んで育っていきます。でも、私の経歴もそうですが、どうしても保育者のキャリアがこま切れになってしまう。続けたいと思っている保育者は多いはずですが、やめていってしまう保育者が多い現状というのは一体なぜなんだろうと残念に思います。さきほど渡邊さんが、先生が楽しく働ける園がいいよねと言ってくださいましたが、保育者が見る子どもの人数規模が大きいとつらい、しんどいとなりがち。そして、やめてしまう環境の問題も大きいということを知っていただきたいと思っています。

注)「保育者の仕事 ~自己チェックリスト~」(執筆代表/小林研介)

【山本】保育のキャリアアップ研修や第三者評価などにも携わっていますが、組織作りができていない園に問題を感じることは多いです。運営者、施設長の都合で園運営が回っているような園もあります。今、保育者の低賃金や配置基準の問題というのが注目されていて、それも解決してほしいとは思っていますが、組織作りができていない施設に金をつぎ込んでも底に穴が空いているところに垂れ流すことになるのではないかという危惧もあります。保育所保育指針には、施設長の役割のところで、保育の質に大きな影響を与えることを自覚しましょうということが書かれています。人間性を高めたり、自己研鑽をすること大切さであると。では、どう改善したらいいのかというと難しい。本来は指導検査などで指導したり規制したり、どうしてもダメな事業は排除したりということも必要になるのだろうと思います。こういった園運営というのも、保育の質の判断材料のひとつとして見てもよいのではないかと思っています。

【普光院】保育の質をよくしていくために、渡邊さんからは、先生が楽しめることが大切ではないかというお話がありました。鈴木さんからは、保育者として経験を積めたことは大きかったというお話がありました。保育者が意欲的・主体的に経験を積む環境になっているのかどうかは大事なことです。山本さんからは、組織作りができていないと、保育改善のためにお金を注いでもバスタブの栓が抜けているような状態になるのではというご指摘をいただいたと思います。私も、不適切保育の相談を受けていて、子どもの権利であるとか子ども中心に考えるということができていない園では、不適切保育を修正することができないと感じてきました。子どもの発達や気持ちについて話し合う風土もなく、施設長自身がそこにアンテナが立っていない、というケースです。園の保育理念というと抽象的なことだと思われがちですが、施設長や保育者がそれをどれだけ理解して実践しているかも重要だと思っています。

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