それは保育園の帰り道の出来事でした。
通勤用の鞄と保育園のバッグを持ち、彼の手を引いて、少し歩いたところで、
「ねぇねぇ、お母さ〜ん。疲れたから、だっこして!」
と、彼は言いました。
しかし、荷物が多くて重たかったので、
「あのね。お母さん、沢山お荷物を持っているから、だっこできないよ。ほらっ!」
と私は答え、荷物を見せました。
すると、荷物を見ながら少し考えた彼は、
「じゃあ、お荷物ボクが持ってあげるから、だっこして♡」と、これは名案!と言わんばかりの満面の笑みで、彼は言いました。
心の中では、「荷物を持ったアナタをだっこしたら同じでしょう!」とツッコミを入れたい所でしたが、大人げないので、そこはグッとこらえました。
荷物を持った彼は、彼なりに荷物が落ちないよう
真剣な顔つきで、保育園バッグの持ち手を握りしめていました。
少しだけ抱っこして歩いたところで、バランスが悪くなったので、「危ないね。落ちそうだから、一回降りて、ちょっとだけ歩いてくれる?」とお願いしたら、しょうがないなぁと言った感じの顔で、「うん。」と言って、降りてくれました。
その日は、何度かこれを繰り返して、家に到着しました。
このことばが、彼なりに一生懸命に考えたアイデアだったのか、単に交渉上手だったのかはわかりません。多分記憶にはないと思うので、永遠の謎です。