保育園を考える

保育園は同じような保育をしているようで、保育に対する考え方や理念は、園それぞれで異なります。子どもの発育段階の特徴は同じなので、保育の基本的な部分は同じですが、どのような保育を行うかは、それぞれの保育園のカラーによってまちまちです。例えば、3、4、5歳児を一緒に保育をする異年齢保育を行っているのかいないかなどの違いがあり、それは保育の違いだけではなく、保育室の構成自体も大きく異なってきます。

また、保育園が置かれるまわりの環境によって、園舎の建ち方も当然のことながら異なります。街の中なのか、住宅地なのか、隣に公園があるとか、その場所に合わせた建ち方を建物は求められるのです。

クライアントから要望された与件を満たしながら、建物を周辺環境になじませ、その場所にとっての最適解としての建物を導き出すことが、私の役割なのです。

つまり保育園の数だけ保育園のかたちがあって、その保育園独自の保育のかたちを引き出して、それを実際の建物として定着させることが、建築家の仕事ということになります。

 

今回は、私が実際に設計した保育園について書かせていただき、様々な保育園の姿から、いろいろな保育園のかたちがあることをご紹介します。

聖光三ツ藤保育園の場合

コンクリート造2階建ての既存園舎の隣に平屋建ての園舎を増築しました。既存園舎の園庭が狭く、運動会は公園でやっていたので、ぜひとも新しい増築園舎の庭で運動会をしたいというのが、保育園からの第一の要望でした。

しかし、運動会用のトラックを描き、観客席などを考えると、敷地が足りません。そこで考えたのが、園舎を中庭型にすること。中庭に運動会のトラックのみを描けるようにし、中庭に面するサッシを全開し、保育室の部分を観客席として使えるようにしました。

さらに屋上に芝生を貼り、そこを観客席にも、出番を待つ子どもたちの待機場所としても利用できようにして、建物が建っていても、敷地を園庭として100%使えるようにしました。

芝生の屋上庭園には、既存園舎の2階から直接子どもたちが裸足で出てゆくことができ、思い切り走り回って転んでも芝生はフカフカなので怪我をしません。

限られた敷地だからこそ、園舎と園庭との境界を曖昧にして、子どもたちがのびのびと活動し生活する場の実現をめざしました。

聖光緑が丘保育園の場合

団地の中にあるこの保育園は、団地の住棟に囲まれながらも、緑豊かな公園が隣接しています。ここは、コンクリート造2階建ての既存園舎に、鉄骨造3階建ての園舎を増築しました。園庭には立派な大きな桜の木があり、その桜の木を残すこと、園庭をできる限り広く確保しながらも、近隣の団地のみなさんに送迎時の迷惑をかけないように、できるだけ駐車場を確保することを望まれました。

敷地の中に増築棟を建てながら、できるだけ多くの駐車台数とできるだけ大きく園庭を確保するという条件を矛盾なく成立させるために、増築建物は公園側の境界線に沿って細長く配置し、効率的に駐車場と園庭を確保しました。

周りを団地の建物に囲まれたこの保育園にとって、隣接する公園は空間的な広がりや開放感を担保する重要な環境資源でした。そこで、園庭と公園との連続性を確保するために、増築建物を持ち上げて、1階部分をピロティ状にし、園庭から公園への視線の抜けをつくりました。持ち上げられた建物は入り口のゲートの役割も担っています。

また、保育室が2、3階となり、園庭との関係が途切れてしまうので、窓を低い位置につくるなど工夫して、園庭と保育室の関係を視線によって結びつけるようにしました、

保育園と周辺環境の関係性が、建物の配置の仕方や存在によって途切れることなく結び直すことに注意を払って設計しました。

新羽どろんこ保育園の場合

横浜郊外の都市化しつつもまだ緑が残る地域の農地を借地させていただき、この保育園を建設しました。

この保育園の保育方針は、“土や自然と触れ合うことを通して、子どもたちの「にんげん力」を育む”というもので、まわりに農地や里山が残る環境は、この保育園にとって最適の環境でした。

農地だった敷地には、栗や夏みかん、キウイの木などがありました。これらの樹木を残し、緑あふれる園庭をつくっています。

園庭の南側には緑豊かな里山が隣接しています。里山を借景し、園庭、アウトドアリビングとも言える3メートルもの奥深いバルコニー、そして保育室が連続した空間になるように建物と外構をデザインしました。

園舎2階部分はバルコニーを全てつけました。子どもたちの遊び場やランチスペースとして、また日差しをカットする役目や設備機器の設置場所などいくつかの機能を担うと共に、その奥深い庇が建物のボリューム感を和らげ、まわりへの圧迫感を低減しています。

さらに、建物の高さを周辺の建物に合わせて抑えることで、周辺環境になじむように配慮しています。

平面計画(建築物全体や部分の形状、各部屋の配置などを平面図上で計画すること)は、保育がしやすいようにシンプルにし、多くの開口部を設けて周辺の緑を借景することで、自然につつまれた保育環境を演出しています。

保育室の天井の高さは、子どもの身長に合わせて2.1mとあえて低く設定し、自然素材を利用して落ち着いた雰囲気を実現しました。

外部の環境を建築の一部として考えて取り込むことで、外と内とが連続した、開放的でありながらも落ち着いた空間の保育園となっています。

はたしてどこまでが保育園なのか?

私が設計した3つの保育園に共通することは、外部と内部を切り分けられたものとして考えるのではなく、子どもたちが活動するひとつのフィールドとして捉えていることです。

子どもにとっては、保育室も園庭もバルコニーも屋上も同じ遊びのフィールドです。そこにはおそらく境界などなく、連続した空間として認識されているのだろうと思います。それは単に園庭と保育室の関係のみならず、保育園と隣の畑や公園、里山、街との関係にも同じことが言えるのではないでしょうか。

不動産的には、保育園の施設はその敷地によって規定されますが、子どもたちのフィールドは住み暮らす地域であり、地域が子どもたちの保育を担うことこそが理想の保育園だと私は考えます。

子どもたちは地域の一員であり、保育園は地域により開かれて地域に溶け込み、また地域も開かれるべきだと思います。それは高齢者施設についても同じことです。

バリアフリーな社会の実現の鍵は、もしかしたら色々な垣根を簡単に乗り越えてしまう子どもたちが握っているのかもしれません。

保育園が「施設」を超えて地域の核となるとき、衰退し消滅する地域の扉でなく、力強く持続する地域の扉を開く鍵を持ちえるのだと私は考えています。

その扉を開くのは人です。建築は単に器でしかありません。しかし器はそれにふさわしいしつらえになっていなければならないでしょう。保育園が地域の核になるのならば、それにふさわしい開かれた建築のかたちというものがあるはずです。

そのかたちとはどんなかたちなのかと考えること、そのかたちを目の前に取り出すこと、私はそれが建築家の仕事だと考えています。そしてそのような建築を作りたいと常々思っています。