指導監査を実地で行う義務づけを緩和する省令案について(2023.3.8提出分)



国は2023年2月10日、保育所等の指導監査を実地により行う自治体への義務づけの緩和について、3度目のパブリックコメントを募集しました。

保育園を考える親の会では、これに関する意見表明を行いました。(前回の意見書はこちら)。


2023年3月8日

「児童福祉法施行規則の一部を改正する省令案 」についての意見書

保育園を考える親の会
代表 渡邊 寛子

実地による指導監査(以下、実地検査)の重要性については、過去2回のパブリックコメント募集の際に提出した当会の「児童福祉法施行令の一部を改正する政令案に関する意見」(2022年1月21日)(2022年8月31日)に記しておりますので、ご確認ください。
2023年2月10日付でパブリックコメントが募集された標記の件について、保護者の立場から以下のとおり意見を申し上げます。

(1)なぜ今この改正を行う必要性があるかについて説明が必要です
この間、大手の保育事業者の運営費不正受給、認定こども園通園バスの置き去り事件、保育所・認定こども園・幼稚園における不適切保育など、保育事業における重大事件が連続して起こっています。こういった経過や、パブリックコメント募集で反対意見が多数に上っていることなどがあって本改正は見送られてきたのではないかと推察していますが、こども家庭庁の発足前にあえてこの改正を急ぐ理由について、特に次の点を含めた明確な説明をお願い致します。

・一般指導検査の実効性を高めるために、実地義務を緩和する必要があるのはなぜなのか。財政的な問題があるのか。
・すでに実地検査の実施率は、コロナ前の2019年の自治体平均で62.5%であり、これを引き上げるよう動機づけるのが国の役割と考えるが、この改正は逆方向に働く可能性がある点をどう考えるか。

(2)実地義務の例外要件は現状を悪化させないものに修正してください
当会は、このような実地義務の緩和に反対です。このまま実施されることは非常に問題があると考えますので、最悪、実施という方向に向かうのであれば、次の点を要望します。

<要望>
 ① あくまでも実地検査を行うことが原則であることを、自治体に向けて明確に打ち出してください。
 ② 書類のみの検査となる場合には、当該施設・事業の利用者に対して提出先を自治体とするアンケート(評価等ではなく、実地検査を行わない理由を利用者に通知し意見があれば書いてもらう簡便な内容)を実施し、回答に懸念材料があった場合には、実地検査を実施するように義務づけてください。
③ 第2号の実地検査を行わない場合の条件として「前年度の実地の検査の結果から必ずしも必要でないと認められる場合」が示されていますが、これは、前年に実地検査を受けており(2年連続の実地検査免除はない)、文書指導も口頭指導もなく、利用者からの苦情等もなく、良質な運営が行われていると明らかに判断できる場合とするなどの条件を示し、いたずらな範囲拡大につながらないよう規定にしてください。
 ④ 第2号の実地検査を行わない場合の条件として「所在する都道府県における前年度の実施検査の実施率が5割以上」が示されていますが、コロナ前の自治体実施率平均が62.5%、100%実施している自治体も49.6%あったことを考えると、この条件では、改正が現状を引き下げるように働く可能性が大きいと考えます。実地検査実施を原則とするという規定を支えるために、「実施率が100%であること」を条件としてください。
 ⑤ 第2号の実地検査を行わない場合の条件は、すべてを満たした場合にのみ、当該保育所について、例外的に実地によらない検査を実施できるということを、明確にしてください。

<参考:パブコメ募集告知に示された例外要件の内容> 
(児童福祉施設および家庭的保育事業等についての記載をまとめて当会で要約。提出したパブリックコメントには含めていない)
改正の「概要」を説明した文書では、引き続き実地検査を原則としながら、例外的に実地によらずとも検査を実施できることとする場合として、 次の2点が挙げられている。
【第1号】天災その他やむを得ない事由により年度内に実地の検査を行うことが著しく困難又は 不適当と認められる場合
【第2号】前年度の実地の検査の結果その他厚生労働省令で定める事項*を勘案して実地の検査が必ずしも必要でないと認められる場合
*「その他厚生労働省令で定める事項」(児童福祉法施行規則を改正して示す)の内容として次の2点が記されている。
・都道府県における前年度の管内の児童福祉施設、又は、管内の家庭的保育事業等に対する実地検査の実施率が5割以上であること。
・事業等を開始してから、3年を経過していること。

(3)実質的に子どもを守る対策をお願いします
 パブコメ募集に示された「概要」に、一般指導監査の実効性をより高めるための取り組みとして示されている事項「検査の実施率の向上」「実地によらない検査を行う際の留意点」「特別指導監査の適切な運用」「より優先的かつ重点的に確認すべき施設や事項の提示」などについては、鋭意実行をお願い致します。
 また、不適切保育の把握については、子どもの権利や保育所保育指針の理念および現場の実践課題をふまえた上で、子どもの視点から個別に判断する必要があると考えます。発生時には迅速な対応や保育の継続を確保するため自治体が施設等を支援することも含め、子どもの最善の利益を中心に施設・自治体・保護者が協力し合う体制の構築が図られるべきと考えます。

 以上、子どもの安全・安心を願う保護者の立場から述べさせていただきました。
4月には、「こどもを真ん中」を謳うこども家庭庁の発足を踏まえ、その趣旨に違わない改正としていただきますよう、切にお願い申し上げます。

 意見書のPDF版はこちら