指導監査を実地で行う義務づけをなくす政令改正についての意見書

国は、2021年12月24日、自治体が保育所等の指導監査を実地により行うことを義務付けた政令(児童福祉法施行令)を改正する案を示し、パブリックコメントを募集しました。

保育園を考える親の会では、権限をもつ自治体が保育施設を定期的に実地に検査することの重要性を訴えて、意見書およびパブリックコメント(同内容、意見書には会員の意見を添付した)を提出しました。


2022年1月21日

児童福祉法施行令の一部を改正する政令案に関する意見
〜保育園を考える親の会の意見表明〜

保育園を考える親の会
代表 普光院 亜紀

 保育所等について年1回の実地による指導監査を自治体に義務づけた児童福祉法施行令を改正し、実地要件を削除することについて、保護者の立場から、強い懸念を表明します。なお、認定こども園や認可外保育施設に関して同様の検討が行われることも、問題と考えます。

1)行政が保育の現場を検査することの重要性を理解してください。
 保育は子どもの命と育ちを左右するものです。年に1回、権限をもつ自治体が現場に立ち入ることは、事件・事故・保育の質の劣化を予防し事業者の姿勢を正す手立てとして、非常に重要です。保護者からは次のような声が挙がっています。

・ずさんな運営による死亡事故や不適切保育などが次々に明らかになっている今、なぜ実地の実施義務をはずすのか。
・新型コロナ感染症蔓延防止が理由に挙げられているが、一時的な状況を理由に恒久的な改正がされるのはおかしいのではないか。
・コロナ禍で保護者等が園内に入れない現状だからこそ、行政は責任をもって実地に監査を行っていただきたい。

<参考>
① 2017年に発覚した認定こども園の事件(わんずまざー保育園)では、定期監査で施設に足を運んだ自治体職員が施設長の話に疑問をもったことがきっかけとなり、抜き打ちの立入調査(特別監査)が行われて、届出のない自由契約児の存在、給食の量の不足、保育士人数の水増し、不正な労働契約等々、多数の不正が明らかになった。この施設が監査にあたり提出した書類はよく整っており、書類からは問題のない施設に見えた。
② 昨年12月には、虐待保育・死亡事故のあった認可外保育施設(といず)についての民事訴訟で、保護者や内部関係者から通報があったにもかかわらず十分な調査を行わなかった自治体の監督責任が問われ、自治体に賠償命令が下った。

2)児童福祉法施行令の実地要件を保持し、行政の責任を再確認してください。
 「児童福祉施設等の感染防止対策・指導監査の在り方に関する研究報告書(案)」では、実地による指導監査を原則としつつ、新型コロナが蔓延している状況下で、かつ直近の指導監査で問題がないことが確認されている場合などの要件を設けて実地の省略を認めるという方向性が示されました。しかし、施行令から実地原則がはずされることより、業務を削減したい自治体が実地を省略する方向に流れてしまうことを強く懸念します。
 規定を変えることが不可避であるなら、施行令の実地要件を削除せず但し書きを加えるなど、むやみに実地省略が広がらないようにする必要があります。関連して、次の点も考慮をお願いします。

・本件は、地方分権改革の提案募集における自治体の提案による。利用者からさまざまな相談を受けている当会としては、近年、直接契約施設の増加により、施設への指導に消極的になる自治体が増えているのではないかと懸念している。この機会に、子どもに安全な保育を提供する自治体の責任や、子どもが適正な基準を満たした保育を利用する権利(子どもの権利条約)について、一層明確にしていただきたい。
・不正や不適切が疑われる保育施設には、新規参入の事業者によるものもあれば、古くから運営されてきたものもある。また、評価が高かった施設が変化してしまうケースもある。仮に実地省略の要件を掲げることがあったとしても、運営年数などで安易に区切らないこと、書類のみの監査が連続することは許さないことが必要。

3)実効性のある指導監査とするために、さらなる検討をお願いします。
 この機会に、指導監査の内容を実効性のあるものとするための検討を進めてください。

・自治体により指導監査がまちまちな現状を改善し、方法や内容を標準化していただきたい。
・外形的基準や各種ガイドラインの規定にとどまらず、保育内容についても、保育所保育指針に基づいた専門的な監査を行っていただきたい。ただし、指導計画の様式など形式的な基準で縛るのではなく、指針の理念にそった点検となるよう工夫していただきたい。
・上記と関連して、子どもの人権を侵害する保育手法*になっていないかについて点検していただきたい(食事や排泄に関し子どもにとって苦痛な強要や制限がある、心身を脅かす制裁を行う、ホームページの一般公開部分に裸・半裸の写真を掲載するなど)。
・保育内容についても助言や指導を行える人材を確保し、人員も強化していただきたい。
・保育士の処遇改善のため、事業者の種別にかかわらず施設会計を監査し、人件費率が低すぎる施設を指導していただきたい。
・保護者や内部関係者から通報や深刻な相談があった場合には、自治体は立入調査を行うなど、迅速な対応が必要であることを明確にしていただきたい。
・指導監査の実施者が、保育施設との関係に左右されることなく公正な指導監査を行うしくみとしていただきたい。
・事務的な情報収集にICTを導入するなどの効率化も進め、本来見るべきところにエネルギーをかけられるようにしていただきたい。

以上、子どもの最善の利益を考慮した検討をお願いいたします。


 

<保育園を考える親の会会員からの声>

【1】実地で行わなくてもよいとすることについて

◆昨年の保育園送迎バスでの事故など、保育園内での痛ましい事故や事件は増える一方です。
私も、子どもが私立保育園に在園中は、不適切保育があったり、園長から保護者に仕事を休むよう強制、寄付及び、寄付金集めのための集会参加の強制などがありました。特に私立保育園や認可外保育園は、もっともっと公的に監査され、たくさんの目で見張られるべきです。この度の改正は、現状に逆行しています。
年に1回の監査でも少なすぎます。監査と、第三者委員会の設置は必須です。
子どもは、自分の危機をうまく伝えることができません。たくさんの目で、命を守っていかないと、子どもは育ちません。

◆宇都宮市に住んでいますが、死亡事故が起こっているからこそ「なくてもよい」は危険だと思います。認可外は、うちは人気だからといっている施設もありますが、保育士も少なくずさんなところもあるので、預けたいと思えません。むしろ強化してほしいと思っています。

◆指導監査には必ず現場に行って実施いただきたいと思います。
以前、子供を預けている保育園で午睡チェックをきちんと実施していなかった、うつ伏せ寝で寝かせていた現場を実際に見て保育園とトラブルとなったことがありました。年1回は指導監査を実施している保育園であったにも関わらず、午睡チェック、うつ伏せ寝回避が徹底されていませんでした。現地で監査をしていても見抜けないことがあるのに、書面のみでは子供を危険に晒す可能性が高まることを懸念します。

◆保育園でお子さんを亡くした保護者団体に意見を聞いてください。政令の改悪に断固反対します。幼保無償化の引き換えに、少しずつこうした安全面という子供が犠牲になるコストカットが実施されることを危惧して、幼保無償化の施行日から無償化反対を表明してきたつもりです。女性活躍には保育園の数の確保ではなく質が担保されなければ、保育園落ちた日本死ねと変わりません。

◆個人の手書きの連絡ノートがあったときは、日中のちょっとしたエピソードも知ることができ、何か大事があったときよりごく普通の日々のようすを楽しめておりました。しかし、保育士の先生方の職場改善(ICT化による業務改善、個人連絡ノートを廃止し、クラス一斉メール送信)と新型コロナの影響による人との接触時間減少により、日中のようすを細かく親が教えてもらえることはほぼなくなり、知ることができる情報は格段に減っています。日常のようす、ちょっとした情報も入ってこないので、「保育園から特別な連絡がないということは、大事はなかったということか」と思うしかありません。
もし、実地調査がなくなれば、その「大事」すら、保育園が隠そうと思えば隠せてしまったり、大事が起きないなら規則を守っていなくてもいいということにならないでしょうか。また、年に1度でも実地調査があれば、保育園側としても、困りごとを相談できるタイミングになるのではないでしょうか?
「いつでも子どものいのちを預かる場として、規則で決められていることは守る」「大事がなくても、親が安心できるような情報共有などは工夫する」といったことが引き続き守られるよう、実地調査はつづけていただきたいです。

◆どの業界でも実地調査があること自体の牽制効果は大きいです。特に声を上げる事が出来ない子どもに対しては、隠蔽の危機を感じます。

◆私はある自治体の公立保育園民間移管選定委員をつとめています。
事業者選定においては、監査時に確認するのと同じ書類を全て確認もしますが、やはりその事業者が保育所保育指針に則り安定的かつ子どもの権利に配慮した保育を行っているかどうかは実地調査に行かないと分からない事が多いです。書類上は問題が無く感じる事業者でも、実地調査でずさんさが如実に分かり減点する事も多々です。
そういった経験をしている中、昨年も起きた保育事故で命を奪われたお子さんのニュースを見るにつけ、しっかり実地調査が行われていたら守れた命なのでは、と感じてしまいます。
保護者の立場として、子どもの命や権利を守るために必要な仕組みを安易に無くしてしまうことの危険性を考えていただきたいと切に願います。

◆クリティカルな問題は、実地をしなくとも安心安全面の監査が遂行でき、実地で行うよりも高い効果が得られれば構わないが、実際はそうではない。保育士の表情を見たり、子供が安心して過ごせているか、さまざまな実態を目で見ることができるものを、ビデオで代用できはしない。もしクリティカルな政令なら、保育園内には監視カメラをおいて、抜き打ちで監査を行えば良いのでは。

◆実際の現場を見にいくことで紙面では見えないことが見えます。今回の改正は子どもを守ることからかけ離れていくと思います。放課後児童クラブの職員配置(一つの支援の単位につき2名)を従うべき基準から参酌基準に下げたのは地方自治の方から(知事会から)の意見によるもので、職員確保ができないという理由であり、保育の質については十分な議論がされていないと聞いています。保育園での死亡事故、虐待、不適切な保育も起こっている現在、子どもたちを守るためには監査は実地で行うことが必須です。子どもの命、育ち、最善の利益を守るために、国は力を入れるべきです。以前私は自治体との話し合いで、放課後児童クラブの参酌基準について、その基準の根拠や目的や保育の質にはふれず、ただ、「これは守らなくていいんです!」と説明されました。つまり、やるべきこととして国が示さないことは、自治体は利用者に「やらなくてもいい」と説明し、やらないということです。 子どもたちを守るためには、実地の監査は明文化して、やるべきこととして示しておく必要があります。

[重要事項ピックアップ]現場を見る・会うことは重要/不適切な運営や保育を経験している当事者として危機感がある/施設への牽制や施設の気づきを促す効果がある/子どもは自分で訴えられない

 

【2】指導監査等に関連して改善してほしいこと

◆抜き打ちで行わないと形式的で意味がない。

◆抜き打ち検査も項目として入れていただきたいと考えています。以前保育園で午睡チェックをきちんと実施していなかった、うつ伏せ寝で寝かせていた現場を実際に見たケースがあり、現地での監査でも事前準備をして臨む場合は、不備が見抜けないケースがあります。
さらに、現在住んでいる自治体(東京都江東区)ではコロナの感染拡大のため現在、現地での監査を見合わせているようです。コロナが一旦落ち着いたタイミングででも実施していなかったようですので、基準を明確にして必ず現地に行っていただきたいと思います。

◆抜き打ち検査を実施してほしい。指導結果を保育園名を公表してほしい。また保育園は保護者が分かる掲示板に結果を貼り出し、保護者会で説明するなど、公明正大な監査を実施してほしい。保護者と園が対話する機会を作ることで、双方の理解促進が進むと安全対策も向上すると思う。上級救命講習を保育士が受講している保育園が少ない。また保育士全員が上級救命講習を受講している保育園もあり、そのような保育園には補助金を出すなど、子供の安全対策をむしろ強化してほしい。また用務は用務員を配置し、保育士が保育に専念できる環境を整えて欲しい。看護師は全保育園に配置してほしい。

◆現在少ししか出来ていない実地監査を今まで以上に行えるように、してほしい。

◆共働きで子育てしやすい街ランキングで上位にあがっているのが不思議でありません。 園にまかせているのではなく、市全体として保育園の水準をあげて、どの園も偏りがないものにしてほしい。

◆園に通わせている保護者の声に耳を傾けてほしい。去年のような痛ましい事故が起こる保育園では、ほとんどが前々から保護者から疑いの声があがっています。子供の事故死を防ぐためにも、保育園を利用する者の意見は大切です。また、保育園から、保護者組織への参加強制がないか、きちんと調査してほしい。保育士からの身勝手な保育拒否(機嫌が悪いから今日は預かれない、など)がないかどうかも調べてほしい。

◆認可保育園内だけでもいいので、情報共有できるようなシステムや園同士で話し合える場を自治体主導でつくってほしい。園に改善してほしいことがある場合、その家庭独自の希望だけでなく、他の園の例などを聞いて疑問に思ったこと(例えば午睡の時間を幼児クラスも設定するかしないかなど)が多いです。園に訴える場合、「○○園では年長児はこうしているから」と話しても「他園は他園」「規則にはないから午睡時間はなくせない」と全く聞く耳を持ってもらえません。
区全体のレベルを保証し、幼保連携、幼保小の連携をスムーズにし、いずれは学力アップへとどの区も繋げたいと考えているなら、そういった仕組みづくりを行ってもらいたいです。

◆子どもたちは顔に正直に出しています。子どもの表情や声掛けへの反応を良く観察して頂きたいです。

◆感覚的なことはそぐわないかもしれませんが、職員の表情、コミュニケーションの量など、やはり現地に行く事でそこから見えてくる組織としての風通しの良さを感じることができます。
保育事故が起きる背景には不適切保育を不適切だと声を上げにくい重たい空気が漂っているはずです。そういった実地でしか感じられない感覚的な部分も含めて大事にしていただきたいです。

[重要事項ピックアップ]
抜き打ち検査を実施してほしい/実施率を上げてほしい/保護者の声を聞いてほしい/子どもをよく見てほしい/職員をよく見てほしい/指導監査の結果を公開してほしい

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