「短時間勤務の保育士の活躍促進」への意見表明

〜保育士の全面パート化を容認してよいか〜

2020年12月21日に国が発表した「新子育て安心プラン」の中に、保育士不足への対応策として「短時間勤務の保育士の活躍促進」が挙げられ、配置基準の保育士を全員パートタイマーにしてもよいこととする規制緩和が計画されていました。保育園を考える親の会は、保育士の処遇悪化や保育の質の低下を懸念して、反対の意見表明をしました。保育士の立場からの投稿(後半)もご覧ください。

2021年1月20日

「短時間勤務の保育士の活躍促進」への意見表明

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀

 「全員が短時間勤務の保育士*でもよい」とする規制緩和について、子どもの利益、保育の質の確保・向上の観点から、保護者の意見を申し上げます。

*業界の実情では「短時間勤務の保育士」は時給労働のパート保育士を指します。

1)「クラス担任」がパートタイマーになることの問題

保護者の立場からは、小学校のクラス担任がパートタイマーであることは考えられないのと同じ意味で、配置基準の保育士(クラス担任)が全員パートタイマーになることは考えられません。

・「クラス担任」は、子ども一人一人およびクラス全体を把握して保育の計画を立て、クラス運営を行う人です。また、子どもの記録をとり、保護者に伝え、助言するとともに、さまざまなトラブルに対応するのも「クラス担任」の仕事です。

・パート保育士にもこれらの業務を行いうる人材はいると思いますが、その保育士が時給労働者でよいとは考えられません。*

*「東京都保育士実態調査」(2019年5月)の結果からは、保育士の正規雇用離れの傾向が明確に表れていました。潜在保育士の再就業においてパート勤務を希望する人が増加している背景には、正規雇用の保育士の負担が大きく、家庭生活や子育てと両立ができないという実情があります。この規制緩和によりクラスに正規雇用の保育士がいなくなれば、その業務はパート保育士が分担するしかなくなり、パート保育士の負担も重くなると同時に、必要な業務が十分に行われないおそれがあります。

2)人格形成期の子どもにアタッチメント不全のおそれ

 勤務時間の短いパート保育士による細切れの保育になった場合には、子どもと保育士の間のアタッチメント(愛着関係)が形成されにくくなり、深刻な保育の質の低下を引き起こすおそれがあります。*

*アタッチメント不全は、子どもの安心感を奪い、養護と教育の質を下げ、発達に悪影響を与えます。発達心理学の知見の検討が必要です。

3)保育士の賃金水準の低下および職業的地位の低下の懸念

 保育士が全員、時給労働者でもよくなることは、保育士の賃金水準を低下させ、その職業的地位を低下させることにもつながります。このことは、保育士の処遇改善を急務としている国の政策方針に逆行します。*

*良心的な事業者は、クラス担任を正規雇用しようとすると思いますが、利益拡大を優先する事業者は、これによってダイナミックな人件費削減を行うことも可能になります。

4)正規雇用保育士の負担軽減、両立支援、パート保育士の同一労働・同一賃金の徹底が必要

 保育士正規雇用希望者の減少は、保育の質の確保・向上にとって危機的です。その背景に、正規雇用保育士の負担の重さ、家庭生活・子育てとの両立の困難があることは明らかです。保育士不足に対応するためには、本施策以前に次の環境整備が急務と考えます。

① 正規雇用の保育士の負担軽減をし、正規雇用のまま育児休業や短時間勤務制度を利用しやすくなる支援を行う。配置基準の改善などの負担軽減*は特に重要。

*保育園を考える親の会のメーリングリストに、保育士や保育士の家族から、幼児クラスの担任保育士の業務が過重になっているとの訴えが複数報告されました。3歳児20対1、4・5歳児30対1などの他の先進諸国と比べても異常に低い配置基準は早急な改善が必要です。かねてより書類仕事の軽減は課題になっていますが、受け持ち人数が減れば書けるという声もありました。

② 事業者が人件費削減を目的とした非正規化に流れないよう、パート保育士が正規雇用保育士と同等の業務を担う場合には、同一労働・同一賃金の原則(2020年施行パートタイム・有期雇用労働法)が適用されるように指導を徹底する。

5)パート化推進にならないために

日本の保育施策は岐路に立っており、本施策は撤回されることが望ましいと考えます。万一実行される場合には、厳しい運用にすることが必要です。パート化容認は「常勤の保育士が十分に確保できずに子どもを受け入れることができないなど、市区町村がやむを得ないと認める場合」としていますが、次のことが必要と考えます。

① 国は4)の施策を実行すること。

② 市区町村が「やむをえない」と認めるのは、緊急的・一時的な場合にとどめ、容認した市区町村は当該施設に毎月調査を行い、常勤雇用を指導すること。

③ 市区町村は、管内のすべての認可保育施設について、各クラスの職員全員の雇用形態および人件費率を情報公開すること。

6)最後に

 保育士不足の解決のためには、保育士の処遇改善と負担軽減が必須です。保育士のパート化推進は、3)に示したような現象を生起させ、保育の質の低下を招き、日本の保育を負のスパイラルに導くことにつながります。

「隠れ待機児童」もまだ多い現在、保護者が「パートタイマーだけの保育園は行かせたくない」と考えても選ぶ権利がありません。もしも選んだら、待機児童数にカウントされません。

上図のように、今すぐ、負のスパイラルから脱出する道を選択することを、私たちは願います。

 


2021年1月14日

保育園を考える親の会・会員メーリングリストに投稿された

保育者からのメッセージ

 

<問題の核心にふれる当事者の方のご意見です>

私は主に幼稚園ですが、保育現場で20年以上働いています。
正規職員として働いたのは合算すると10年で他はずっとパートです。

子どもが小さいうちはハードな保育からは遠ざかり他の仕事をしていました。

その後保育現場に復帰してパートで働くこと9年。
そろそろ正規職員として働こうとチャレンジしたのは3年前のことです。

子育てにお金が掛かるようになったことも理由のひとつです。
通勤時間を削るために近隣の園に正規職員として転職。

ところが3歳児26人の担任業務は想像以上に厳しく家庭との両立どころではなくなり、
子どもも旦那もほったらかしな状態になり2年で辞めました。
家庭や身体が崩壊しては元も子もありません。

今は保育園の週4日のパート派遣の勤務に切り替え自分の時間を取り戻し、
家族からは笑顔が戻ったと言われています。

そんなところへ今回の「短時間勤務の保育士の活用」の内容。

厚労省の見直し案を見ると
「各組や各グループで1名以上常勤の保育士配置を求める規制を撤廃し、1名の常勤の保育士に代えて2名の短時間勤務の保育士を充てても差し支えないこととする。」
とありますが、そうなったら私が担任を辞めてパートで働いている意味はなくなりますし、
意見表明の図が示すように、
さらなる保育士不足や保育の質の低下になることは明確だと思います。

ましてやそれが正規職員の助けになるとは思えませんし、
職員が増えることに繋がるとも思いません。

見直し案の目的である潜在保育士の掘り起こしとはつまり、
保育の仕事をもう一度やりたいと思った人が
復帰した後も無理なく続けられるということだと思うのですが、
それはいったいどういう現場なのかとずっと考えていました。

逆を言えば保育をやりたいと思う私が何故に続けられなかったのかということ。

現場では、まだまだ改善の余地ありとしてもPC導入やシフトの改善などを行っています。

それでも毎年退職者が出ます。
保育園で3歳児クラスを持っている友人に、ひとクラス何人が良いか聞いたところ

「15人ならいいかな」と言っていました。

私も同感ですし、普光院さんも「だいたいどこの国でも、保育士が受け持つ幼児の人数は多くて十数人程度です。」とおっしゃっていましたね。

そうなんですよ。

25人前後がひとつの保育室にいると、ケガをしないよう見守ることで精いっぱいで、
場合によっては管理するほうに力が注がれますから、
夢に見たニコニコとほほ笑む保育者の姿とはほど遠い表情になることもしばしば。
そのギャップに苦しみ、若い時は特に、自分にこの仕事が合っているのかと悩むこともありました。

書類の種類が減らなくても(減らす努力は必要ですが!)、クラスの人数が少なければ負担は減ります。
人数が少なければケガや衝突のリスクは減り、ゆったりとした気持ちで子どもと関われます。
先生の笑顔が増えます。子どもも落ち着きます。
それは理想論だと思っていましたが、今こそ訴えるべきことだと思いました。

「負のスパイラルからの脱出を」(意見表明に収録の図)
これは国の案を検討している方々に是非ご理解頂きたいです。

子育てを経験し今度は社会にその力を発揮したいと思う保育士はいるのですから、
保育園や幼稚園がそういう人を生かす雇用体制が作れるように行政が十分に支援すること、
持ち帰りの仕事がなく、子どもの命と育ちを保証する責任ある仕事に見合った十分な収入が保障され、
この仕事の地位が向上すること、
潜在保育士の掘り起こしが必要ならば、こういったことを整えていくことが大事なのではないでしょうか。

これからの保育を担う方々が辛い思いで現場を去ることがないようにと願うばかりです。