「子ども・子育て新システムの基本的方向」に関する要望書

2010年6月4日

「子ども・子育て新システムの基本的方向」に関する要望書

保育園を考える親の会
代表 普光院 亜紀

先般発表されました「子ども・子育て支援新システムの基本的方向」について、就労家 庭の立場から、以下のことをお願い申し上げます。

1 「公的保育契約」における国・自治体の責任および関与を法律に明記してください。

「基本的方向」によれば、「幼保一体化」や「公的保育契約」(直接契約)などの文言と ともに、保育所制度の抜本的変更が示唆されているようです。どのような制度になるにし ても、就労家庭等の子どもについての保育の実施責任を市町村に課した児童福祉法 24 条 をはじめとして、保育の質・量(整備)に係る自治体の責任につき国が法律等に定めてき た内容は、新システムの中でも、必ず明確に規定していただくようにお願いいたします。

【国・市町村の保育の量(整備)に関する責任】

a. 法律に、国および市町村は、保育の「量(整備)」に責任をもつことを明記してくださ い。

指定制・直接契約制度の導入で、児童福祉法 24 条が改変あるいは削除されるようなこ とがあれば、市町村の供給責任や主体性が後退し、必要なところに必要な内容の保育を整 備するというよりも、採算が取れるところに採算がとれる内容での保育事業が進出すると いう供給体制になる恐れがあります。介護保険のように、求められる保育が供給されなく ても、市町村の責任はなく、事業環境の問題とされ、待機児童数の把握さえされなくなる というようなことは、あってはならないと考えます。
保育を切実に必要としている子ども(家庭において日中の養育ができない、あるいは困 難な子ども)の保育を必要量整備することは国および市町村の責任であることは、必ず法 律に明記してください。

【国・市町村の保育の質に関する責任】

b. 法律に、国および市町村は、保育の「質」に責任をもつことを明記してください。

保育士等職員配置、保育室面積・調理室等施設設備、その他の安全衛生等に関する最低 2 基準、保育所保育指針は、子どもの命および発達を保障する人権にかかわる基準であり、 国はナショナルミニマムとしての最低限度を全国に確保する責任をもち、自治体は国の基 準を上回る水準を確保すべく努力すべきことを、法律に明記してください。 そのために必要な適正な財源の確保についても、国および市町村の責任を明確にしてく ださい。地域主権の望ましい実現のためにも、自治体がナショナルミニマムを下回 らないように国が支えるしくみを確保してください。

【都道府県・市町村の指導監督等に関する責任】

c. 法律に、市町村もしくは都道府県が、域内の保育施設を指導監督する責任をもつこと を明記し、公的保育として不適切な運営を改めない施設に対して認可もしくは指定を取り 消すなどの権限を付与してください。

そのためのしくみの一部として、公的保育契約のもとの保育所についての利用者等から の苦情や紛争については、子どもの最善の利益の観点から、市町村が相談を受け必要に応 じて介入すべき立場にあることを明確にしてください。 また、保育室面積・園庭面積、保育士の人員および資格、職員の雇用形態や退職状況な ど、施設運営の詳細を情報開示することも施設に義務づけ、これを利用者等に提供するこ とを市町村もしくは都道府県の責任としてください。

2 包括的な教育・支援を損なわない幼保のしくみを

大正時代から昭和にかけて幼保一体化が求められてきた理由(保育所での幼児教育を充 実する)は、保育所での就学前教育の充実発展により、すでに理由として成り立たなくな っている現状において、あえて幼保一体化を行おうとする理由は何なのか明確にしてくだ さい。待機児童が多い地域の就労家庭からは、幼稚園の就労支援も期待されていますが、 一方で保育所機能の低下は絶対に避けなくてはならないと考えます。諸外国とは異なり保 育所・幼稚園が対等に発展してきた日本の保育資源の特質を活かせるように、また、「す べての子どもへの良質な成育環境を保障」という「基本的方向」の目的を具現化できるよ うに、時間をかけて検討する必要があると考えます。

【乳児保育・長時間保育の体制、将来の質の向上】

a. 都市部では、幼稚園の就労支援強化によって、待機児童問題の緩和を図ることが想定 されていると思われますが、その場合には、乳児保育・長時間保育について、保育所と同 様の体制を確保してください。また、近い将来、幼保ともに、より望ましい保育体制とす 3 ることを予定してください。(保育者の人員配置など)

【一日・一年を通した教育保育カリキュラムの維持】

b. 保育所の一日の生活のリズムが考慮された保育の組立て、長い保育時間を活かした 教育内容(遊びの深まり、集団活動)、調理室を活用した食育、就労を前提とした家庭支 援などが、幼保一体化によって損なわれてはならないと考えます。また、春、夏、冬休み を年間計画に入れている幼稚園と、年末年始の休みを数日しか前提にしていない保育所で は、教育プログラムが異なるのは当然であり、それぞれの実施期間に合わせた工夫が尊重 されるべきことを配慮していただきたいと考えます。 【児童福祉機能の維持】 c. 児童福祉施設として保育所が果たしてきた機能(多様な子どもや家庭の受容、養育困 難家庭の支援、地域の子育て家庭の支援)の重要性は、近年ますます大きくなっており、 そのために保育所保育指針も 2009 年に改定施行されたばかりです。保育所の児童福祉機 能(子ども支援機能)は、よりいっそう向上させる必要があると考えます。

【細切れ・切り売り保育への警鐘】

d. 少子化対策特別部会が検討してきたしくみの導入が想定されているようですが、日 数・時間数によって小間切れに区分し従量的に料金を徴収する方式は、「質の高い幼児教 育・保育」を保障する視点からも、子どもや家庭の状況に合わせ柔軟に支援を行う視点か らも、不適切と考えます。従来、保育所では、子どもの生活のリズムや連続性を重視し、 子どもと家庭に対して包括的な支援を行ってきました。このようなメリットを消失させな いしくみである必要があると考えます。

3 「事業者のイコールフッティング」よりも「子どものイコールフッティング」を

「基本的方向」の中に「イコールフッティングによる多様な事業者の参入」と いう文言がありますが、「イコールフッティング」は、市場原理での競争を実現す るための必要条件です。完全な市場原理を保育に導入することは不適切であるこ とは、少子化対策特別部会等におけるこれまでの議論でも再三確認されてきたこ とであり、今一度、理念との整合性を図る必要があると考えます。

【営利の制限、公費は子どものために】

4 a. この「イコールフッティング」は、たとえば、施設整備費が社会福祉法人には出るが 株式会社には出ないことなどを不公平とする意見等から出てきた文言と思われますが、こ れらを同じ扱いにする場合には、給付される公費の使途制限(株主配当や他事業への転用 を制限・禁止する)、行政の関与(指導監査その他)などの扱いも両者とも同様に徹底し、 事業者の経営のやり方によって子どもの環境に格差が生まれないように、すなわち「子ど ものイコールフッティング」を重視することを理念として明確にしてください。

【保育人材の確保育成、経済格差による子どもの選別の防止】

b「子どものイコールフッティング」のためには、次のことが必要です。 ・家庭の所得格差によって子どもの居場所が区分されないように、保護者が負担する保 育料を公定価格とし、応能負担もしくは低負担とすること。

・保育士は、保育の質の最大因子。保育人材を確保育成するための人件費をどこの施設 でも一定程度確保しなければならないとするルールを定めること。

・付加価値的保育(習い事保育など)を、別料金を徴収して行うことを制限すること(事業者が付加価値を開発することを競いあい、そこで利潤を挙げようとすることは、本来の就学前教育の趣旨から離れ、また保護者の負担能力により子どもを区分することにつ ながる)。

4 待機児童の解消と財源の確保を先行させてください

【待機児童があふれる現状では⋯】

この十数年、都市部では待機児童解消が叫ばれてきたにもかかわらず、保育所の増設を 行わず、「定員超過受け入れ」等の規制緩和による「その場しのぎ」の対策しか行ってこ なかったことが、現在の都市部の待機児童問題をさらに深刻にしました。

待機児童の問題を根本的に解決するには、保護者が安心して子どもを預けることができ る施設を充足させるしか方法はありません。すなわち、保育所保育指針による保育が行な われ、十分な保育士が配置され、狭過ぎず、小さくても庭が確保され、調理室を備え、保 育料が無理なく払える額である施設を、フルタイマー家庭も、パートタイマー家庭も、そ の他の必要とする家庭も利用できるようにすることです。

「基本的方向」は、現行制度を根底から変えてしまう内容になっていますが、待機児童 があふれ、保護者が「どんなところでも預けざるをえない」状況の中で、基準を切り下げ たり行政の関与を少なくしたりするような制度変更を行うことは、子どもたちへのリスク が高すぎます。また、現実問題として、入所選考の透明度や公平性などをどのように保つ 5 のか、現状での改変は大混乱が起こることが予測されます。 どのような制度のもとでも適正な保育には一定のコストがかかるということを前提に、 必要なお金を投入し、現行水準を守りながらの待機児童対策を何よりも先行させてほしい と考えます。

【財源の確保を確実に】

「すべての子ども」を対象とする制度をつくるためには、それなりの予算が必要ですが、 万一、財源の確保が十分に行なわれないまま、制度変更がされた場合、その影響は、保育 の質の低下や、必要度が高い家庭が必要な支援を受けられない事態となってはねかえって きます。将来にわたっても財源を確保する見通しを立てた上で、制度変更を行ってくださ い。

「社会全体による費用負担」に、事業主も含めることに賛成します。どのような財源の しくみをつくるにしても、全国どこでも、施設が最低基準以上の体制で安定運営ができる ように、国も責任をもつ公費投入のしくみにしてください。

以上

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