2022年12月12日、保育園を考える親の会は、「保育施設における不適切保育の防止に関する緊急要望」を厚生労働大臣、少子化担当大臣宛に提出し、記者会見を開いて発表しました。
相次ぐ不適切保育報道を受け、長きにわたって保護園等に関する相談を受けてきた立場から、現場の問題点と防止のための施策について提言しました。
以下が文面です。PDF版はこちら。
令和4年12月12日
厚生労働大臣 加藤 勝信 様
内閣府特命担当大臣(少子化対策担当)小倉 將信 様
保育園を考える親の会
代表 渡邊 寛子
保育施設における不適切保育の防止に関する緊急要望
日々子ども・子育ての支援にご尽力いただき、ありがとうございます。
保育所・こども園における不適切保育事件が相次いで報道され、子育て家庭に不安が広がっております。このたび、不適切保育(虐待保育を含む)について保護者等の相談を受けてきた立場から、次のような対策を行っていただきたく、緊急の要望を提出いたします。
*ここでいう保育施設とは、保育所・認定こども園などの認可保育施設、認可外保育施設、幼稚園など、保育が行われているすべての施設を含みます。放課後児童クラブについても訴えがあることにご注意ください。
緊 急 要 望
(1)関係者の啓発を行ってください
保育事業者、施設長も含めた保育施設職員、自治体の関係職員を対象として 虐待保育・不適切保育を防止するための啓発を行なってください。
〔必要な内容〕
・子どもの権利条約(特に2006年・一般的意見8号)
・不適切保育の定義・具体例、「しつけ」との区別(身体的・心理的な苦痛を与えることは「しつけ」にはなりえないこと)
・不適切保育が子どもの発達に与える影響
・法令・規則との関係
・保育者が困りがちな局面における子どもの発達・心理の知識、具体的な保育手法の例示
・アンガーマネジメント
(2)内部告発や保護者の訴えを受ける窓口を設置してください
市区町村の担当課、都道府県の指導監査部門等に「不適切な保育・教育に関する相談窓口」を設け、子どもの人権が侵害されている恐れがある相談があった場合には、即座に調査を行う体制を作ってください。
内部告発者や保護者は、事実を訴えることで不利益を被る状態にあることが多いため、告発者・相談者を守りながら解決を模索する必要があります。
(3)自治体・事業者・施設長の責務を明確化してください
上記と関連して、保育の場において子どもの人権侵害を防止する責任は、自治体・事業者・施設長にあることを法令等に明記してください。これらの立場でありながら、内部告発や保護者からの訴えに取り合わなかったり、いたずらに対応を遅らせたりすることがあった場合には、責任を問われるしくみにしてください。
(4)調査・事後検証の手順を示してください
不適切保育に関する相談や告発があった場合、園・自治体が次のような調査等を行うべきことやその手順を示してください。
〔内容例〕
・訴えがあった場合は、速やかに事実を確認する調査を行う。
・事実が確認された場合には、当該保育者を現場から離すなどの対応を行い、子どもの被害を食い止める。職員が不足する場合は、自治体が支援する。
・被害の範囲や要因を明らかにするため、他の職員や保護者にも聞き取り調査を行う。調査の際に子どもの心に悪影響を与えないための配慮等についても示す。
・調査は自治体が自ら行うか、自治体の介入のもとに事業者が行うこととし、決して事業者任せにしない。調査等の結果、深刻な事実が明確になった場合には、事後検証委員会を設置し、再発防止策の報告を行う。
(5)保護者には正確な事実を伝えてください
不適切保育が起こった事実を当該園の保護者全体に伝えてください。被害に遭った子どものプライバシーを配慮する必要がある場合は、全体への伝達とは別に、クラス別あるいは家庭別に事実を正確に説明するようにしてください。
家庭が子どもに起こったことを知らないままでは、子どもの心のケアや、子どもに異変があった場合の対応がうまくできないおそれがあります。
これらの説明は自治体の立会いのもとで行うなど、責任ある立場の者が内容や経過を確認できる方法で行う必要があります。
(6)子どもの心の状態を確認し、必要なサポートを提供してください
深刻な不適切保育が明らかになった場合は、専門家による診断などで子どもの心への影響を調べ、治療が必要になった場合には、家庭がサポートされるしくみをつくってください。
(7)保育士資格剥奪と再取得の禁止措置を定めてください
甚だしく心身を傷つける保育を行った保育者は、保育者としての適格性を確認し、不適格と判定された場合には保育士資格を剥奪する、さらには、再取得を禁止するなどの措置が必要です。英国のDBSのしくみなども参考してください。
(8)保育士に適格で意欲的な人材が集まるよう制度を改善してください
このような不祥事が相次ぐ背景には、保育士人材の不足があります。保育所保育指針に基づき子どもに質の高い保育を提供しようとする意欲的な人材が、疲弊してしまうような現場の状況は速やかに改善すべきです。保育士の配置基準や待遇を改善し、保育士に意欲的かつ適性をもった人材が集まるように制度や構造の改善を行ってください。
< 参考:当会への相談事例に見る問題点 >
・不透明性
保育施設内は外部の目がなく、子ども自身は伝える力を十分に持っていないため、不適切な行為が行われていても発覚しにくい。さらに、子どもの心の傷への配慮が必要なため、被害を受けた子ども自身からの聞き取りには限界があり、事実が明確になりにくい。
・人権意識の希薄さや閉鎖性
施設長や他の職員が問題行為に気づいていても、子どもの苦痛や恐怖に対して鈍感で子どもの人権への意識が薄い場合や、互いの保育に口出ししないという閉鎖的な風土がある場合は、内部では修正できない。
・「しつけ」との区別がつかない
子どもを従わせることを「しつけ」と考えている施設長や保育者が一定数存在する。その場合には、どういうことが虐待や不適切保育にあたるのかについて具体的な解説や例示がないと「しつけ」との区別がつかない様子が見られる。
・事業者・施設長および自治体の責務が不明確
保護者の訴えや内部告発があった場合も、事業者・施設長や指導すべき当局(都道府県・市町村)の対応が遅いため、その間も不適切な状態が継続する。
要因として、上記の認識不足のほか、事業者・施設長は不祥事を表沙汰にしたくない、保育士をやめさせると人員が不足するなどの懸念から、自治体担当部署は民間事業には介入できない、証拠がないので動けないなどの考えから、動きが鈍くなりがちであることが挙げられる。不適切保育防止への責任感が欠如している。
・事後対応のまずさ
保育士を系列園に異動させて決着させるため、異動先での状況が把握されない。特に管轄外の施設に異動した場合、自治体は介入しない。
深刻な事態があっても、保護者全体への説明が不十分だったり、被害を受けた当事者家庭にその事実が知らされなかったケースもある。家庭が知らないままでは子どもの心のケアができず、後から被害が現れても適切に対応できない。トイレに閉じ込められ電気を消された事件では、後からPTSDの症状が現れ、カウンセリングなどの治療が必要になっている。
<参考資料>
子どもの権利条約(ARC 平野裕二の子どもの権利・国際情報サイト)
https://w.atwiki.jp/childrights/
一般的意見8号(2006年)*子どもの権利条約を子どもの権利委員会が補足するもの
http://childrights.world.coocan.jp/crccommittee/generalcomment/genecom8.htm
全国保育士会「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト」(平成29年)
https://www.z-hoikushikai.com/about/siryobox/book/checklist.pdf
厚生労働省通知(令和4年 12 月7日)「保育所等における虐待等に関する対応について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/001021533.pdf
「不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き」
令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 「不適切保育に関する対応について」 事業報告書(別添)
https://cancerscan.jp/wp-content/uploads/2021/06/dcd34c7b5f61320be9d95ac0c0751157.pdf